両俣小屋へ ② 2015 8/29・30

「げっ。・・・来たの。マジで。」
小屋の中から扉が開いて
出迎えてくれたバイト君(ムスコ)の第一声がそれ。
すかさず奥から星さんに
「こらーっ、お客さんが来たら 『お疲れさまでした』 だろーっ。」
指導が入れられ苦笑するバイト君。
・
・
このバイト君の第一声の真意は後に聴いたところ
本当はこの一週間前に行くといってあったのに現れず
この土日は天気予報が悪いため
雨予報ではハハは普段から山に行かないから
もう来ないだろうと星さんと話していたのだと言っていた。
甘いな。。。
しかも一人で来ると思っていたら連れが3人も…。
というそれらすべての思いが「げっ。」に集約されていたということらしい。
・
・


とりあえず中にいる星さんに担いできた富乃宝山と手土産のお菓子を渡してご挨拶。
テン場の受け付けと夕食だけお願いをして
テントを張ってひと休みすることに。


静かなテン場。
テン場の裏の池は完全に時間が止まっている。


雨も落ちてきそうなので
屋根付きテラスwでお疲れさまでした!


山頂デザート第二弾は
シゲシゲが用意してくれたオーボンヴュータンのケーキ♪
今回は自分で何にもデザートの用意もせず
メンバーに美味しいものを食べさせてもらうシアワセ。






このすぐの所にある北岳への左俣ルートの入口のペンキは
二年前に来た時よりもかなり薄れていた。

この奥へ行くと左俣大滝があり
中白根沢の頭に突き上げる道があるはず。
釣りのヒトはこの奥へも入って行くらしいけれど
どっちにしても沢沿いは自分でルートをとりながら歩いていくしかなさそうだし
この河床の様子は怖ささえ感じてしまう。
増水していればそれは尚更のこと。


この日の小屋のお客さんは
釣りのヒトが3名だけということらしく
その釣りのヒトたちもポツポツと小屋へ戻ってくるような時間だった。
夕食は5時半と決まっている。
ではそろそろと小屋の中へ入ろうと扉を開けると
足元をすり抜けていくジャッキー。

三毛のジャッキーはもう21歳になるそうで
抱っこしようとすると、しょうがないわね…、そんな感じで抱かせてくれた。
もう耳が聞こえてないんだよね、多分、
と星さんは言っていたが優雅な動作だった。
食事の用意ができましたのでどうぞ、
とバイト君から声がかかり
今日は一緒に飲むよ、宴会だよ、と星さん。
星さんとバイト君も私たちのテーブルに一緒に席に着いてくれた。
カンパーイ!
目の前に並ぶ夕食はハンバーグと天ぷらは固定メニューだそうだけど
その他に小鉢が二品付き、ごはんみそ汁はお代わり自由という豪華なもの。


天ぷらの蓬は星さんが小屋の庭先でさっき摘んでいたものだ。
今日は特別、と言ってさらにカツオのタタキや
ツマミまで出してくださって
全部そこの川で取れるのよ、と星さんは笑っていた。

「もう、こいつは最初は逃げ出すんじゃないかと思ったよ~」
「本当に初期設定がタイヘンだったのよ~」
と星さんにさんざんに言われているバイト君はニヤニヤ笑っている。
確かに、何もできずに放り込んだハハには耳が痛いけれど
「バイト料どころか、こっちが授業料お支払いしなくちゃいけないですね~」
「そうよ~」
あはははは。。。
それでも
先日あった遭難騒ぎで、夜、居合わせた大学の山岳部の人たちと
仙塩尾根まで捜索に出かけてそれからコイツは変わったのよ、、、
そんな話まで聞かせていただいて
言われている本人は相変わらずニヤニヤしている。
そしてそのバイト君の横にはもう一匹のミーが座り
星さんにしきりにニャーニャーと話しかけていた。

富乃宝山を飲みながら
来れて良かった。と思えた夜だった。
8月30日(日)
夜中から雨がテントを叩く音がしていた。
昨日、夕方遅くに仙丈ヶ岳から仙塩尾根を歩いてきた
トレラン風のお兄さんのツェルトは
私たちが起きた頃にはなくなっていた。
朝ごはんのバウルーのコンビーフサンドを食べて
さて今日は朝から雨だしどうするかな~と思っていた所へバイト君がやってきて
雨で野呂川も増水してるし早めに下山したほうがいいということを伝えに来てくれた。
バスは9:55発。
林道を歩くことを考えるとそんなに余裕はない。
・・・じゃあ撤収。
のんびりする時間はなく雨具を着てそそくさと撤収にかかる。


片付けて小屋に寄ると星さんが
まだ少し時間あるからとお茶を出してくれた。



小屋の屋根を叩く雨音も時折かなりな大きさとなって
この調子で雨が降ると林道も通行止めになるかもしれないからと
連泊の予定だった釣りの人たちも下山したほうがいいと
今日の分の宿泊代を返されて下山ということになった。
「あれ以来(41人の嵐の一件)早めに下山させるようにしてるのよ。」
星さんは笑って話していた。

お礼を言って、星さんとバイト君に見送られ小屋を後にする。
雨は結構な降りで横を流れる野呂川も
昨日よりも明らかに増水してその流れの勢いを増している。
山側から流れてくる小さな沢もかなりな水の勢いで道に流れが溢れている。



台風10号の時も
雨自体はこんなものじゃなかったかなぁ。。。
振り返り山の襞の奥にある両俣の方を眺め
そんなことを思いながら
帰路の林道を歩く。

昨日対岸に見えていたガレ沢は今日は白い流れが滝となって落ちていたり
林道に流れ込んでくる大仙丈沢や小仙丈沢は
流れが真っ白な飛沫をあげてゴオゴオと流れ落ちていた。



でもあの時と違うのは
私はもう高校生ではなく
ゴアテックスの快適な雨具を着て
信頼できるメンバーとこの林道を歩けている。
ずっと灰色だった雨の林道歩きの記憶は
きちんと色のついたものに書き換えられて
新しいページに綴ることができた。




8月最後
夏といえる最後の山は
山の上には行かれなかったけれど
この雨のお天気でかえって良かったのかもしれない。
帰りのバスに揺られながら
ぼんやりと雨に煙る窓の外を眺めていた。
( おわり )
- 関連記事