船窪小屋 2016 8/13・14 ②

危険な水場とお茶会と。
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ビールで乾杯して
デザートも食べてひとごこちついたところで
船窪小屋名物の危険な水場を見学することに。
もちろんHさんは小屋用の水を汲みに行くという大切な任務があるので
それも兼ねて案内してもらう事になった。



七倉岳山頂への分岐をテン場方面へ。
ガスで全容は見えないけど
向かい側に船窪岳の深い深い谷間を挟んで
道は次第に下りになって
かなり急な階段を下りていくとそこがテン場になっていた。
昔はここに小屋が建ってたんですよ、とHさんが教えてくれた。
テント流行りもありテン場はかなりな賑わいで、
もう少し遅くなれば一杯になってしまいそうなほど。
水場は船窪岳への道を分けてさらに奥へ進んでいく。

進んでいくと右手がバッサリと崩れている斜面に出た。

「この下ですよ。」
とにこやかに指差すHさん。
・・・この下?? ・・・ は??

目を凝らして見ると
先にひとり下って行った人が
左手からロープにつかまりながら出てきたんだけど…
あらためて
・・・は?????


最後の見納めとばかりに咲いているお花畑を通り過ぎるとロープが垂れていた。


そしてロープにつかまりながら
この崩れた斜面をトラバースしていくと
確かに斜面の真ん中らへんから水が湧き出していた。

冷たい水だった。
手にすくって飲んでみたけれど
冷たい、それは温度だけではなく、味も冷たい…
山の中ではあまり飲んだことがないような
そんな印象の水だった。
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この水場も小屋明けのときには土砂に埋まっているそうで
スタッフの皆さんが水場までの道をつけ
この危険な斜面で土砂を掘り起こし
この水を確保して下さっているということは
あとからスタッフさんのSNSで知ったことだった。
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Hさんが小屋用の水を
ペットボトルに入れるお手伝いも少しだけして
Hさんは20キロ近くの水を担いで、またこのガレ場を上がっていく。
危険な水場と言われる所以、確かに。

帰り道はまたテン場から急な階段を上がり登っていく。
水を汲みに行くだけでかなりなものだ。。。
お酒も入って少し疲れ気味のKちゃんは
七倉岳への分岐までくると待ってると言ってくれたので
山頂まで往復する事にした。



分岐からほんの10分もかからないくらいで
あっさりと七倉岳の山頂へ。
湧き上がる雲に景色はほとんどないけれど
それはそれでブロッケンが現れたり
山はいろんな楽しみを用意してくれていた。

明日晴れることを期待して
ここからの景色がどんなものなのかを楽しみに
そろそろ夕食の時間も近いので小屋へ戻りましょうか。
Kちゃん待たせてごめんね、さあ、小屋へ戻ろう。

小屋に着いた時に
一回目は外での食事、
二回目は囲炉裏の部屋での食事になりますが
どちらがいいですか?
と聞かれていて、それはもちろん、外で!
みんなの意見も一致。
なんて贅沢な食事なんだろう。

その内容も贅沢の一語。
この場所で、、、電気も水道設備もないこの場所で
赤米の入ったごはんにお味噌汁、
山菜の天ぷら、生春巻きに、
煮物は一品一品味付けまで変えているといい
デザートまで
これだけの品数がほとんどが手作りで提供される、、、
ありがたくてどれも味わいながらいただいた夕食だった。



雲が多くて夕焼けにはならなかったけど
夕食の後も気持ち良い外で一杯やりながら
過ごす時間は、至福、という以外、ほかに言葉も見つからない。

ただ、至福の中にひとつの不幸が・・・
今回頑張って持ってきた一眼のカメラ。
なんとここでメモリーカードが入っていなかったことが発覚。
あの黄色いポストは幻に終わった・・・
それでもここで気が付いたおかげで
ランプの暖かい灯りをちゃんと映すことができたのだから
ま、いっか。


小屋にランプの明かりがが灯り
空気までもが柔らかくなっていくような小屋の中。
そろそろお茶会が始まるみたいだから中に入りましょう
そうしてやっと囲炉裏の広間の一角に腰を下ろした。
いつ見てもニコニコされているお母さん。
お茶をどうぞ、といただいたのは優しい甘さの紅茶のようなお茶だった。


お盆休みの期間中ということもあり
かなりの人数のお客さんがいて
囲炉裏の周りを二重に取り囲むくらいのいっぱいの人。
お茶会はまず、お父さんのお話から。
ボクトツとして、でも話のツボを心得ているような話し方に
すっかり聞き入ってしまい
お父さんが大町高校の高校生だった頃
山岳部の合宿で10日間この北アルプスの山に入っていた時の話は
思わず身を乗り出して聴いてしまいそうだった。
休憩中に石を投げていたら雷鳥に当たって死んでしまい
その雷鳥を味噌汁にしてみたけれどハイマツ臭くて食べられなかった話とか
その合宿でこの船窪小屋小屋へ来た時にお母さんに会った話とか
そのまま今に至るまでのお話でもしてくれそうな勢いに
時間も忘れて聞き入ってしまう。。。

お父さんの話の後は普段はDVDを見たり
来ているお客さん同士の自己紹介とか、らしいのだけど
今日は人数も多いし、
それに何と言っても
この小屋の常連というかお手伝い、というか名物のMさんという方が来ているので
今日は特別にMさんのアコーディオンの演奏会という事になった。
拍手と共に登場したMさんは
自分でMCも務めながら、
録音、写真はご遠慮ください、それではハウルの動く城から、
と鍵盤に指を添えた。

ランプの明かりで聴くアコーディオンの音色は
・・・・・耳から入ってくるのではなく
心に直接刺さってくる音色だった。
なんだろう・・・
たちまち目が潤んで
口をへの字に固く結んで
それ以上目が霞んでくるのを必死に我慢してるみたいな。
そのあとも
クスッとしてしまうようなMCをはさみながら
チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレ
映画「パピヨン」のメインテーマ
寅さんのテーマ
若い王子と王女
井上陽水の少年時代
次々と雰囲気が変わるラインナップで
その曲を知らない人でも飽きさせることなく
山の上で
こんなに濃くて豊かで・・・
そんな時間を過ごすことができるなんて
想像もできなかったことが目の前で起きていく。
なんだか
こんな豊かな時間を知らずに生きていたら
それは悲しいことだよね・・・
そんな気さえしてしまった夜だった。

( つづく )
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